【配合解説】サトノフェイバー

配合アドバイザー衣斐浩本人による血統解説

2018年のきさらぎ賞を無敗で制したサトノフェイバーも私の配合馬ですので、少し長くなりますが解説していきます。
まずその母、ヴィヴァシャスヴィヴィアンの血統には大きな特徴が3つあります。

1・父ディストーテッド ヒューモア Dostorted Humorは典型的なアメリカ血統だが、祖母の父ミスター リーダー Mr. Leaderが欧州の異系血脈を持っている。
2・祖母トゥズラ Tuzlaは、ブラッシング グルーム&トム フールのニックス配合である(メノウ Menowの6×6クロス)。
3・祖母トゥルケイナ Turkeinaは、レルコ Relkoの2×3クロスを持っている。

1のミスター リーダーは、母の父が私が重要視する「ジェダー Djaddah」です。
ジェダーはマルセル・ブサックの配合したジェベル Djabel直系の「異系の欧州血統」で、「ダーバン Durban&全姉妹エルディファン Heldifannの3×2クロス」を持つ、超近親交配の一流馬でした。
ジェダーは競走馬としてエクリプスステークス、チャンピオンステークスに勝ち、米国で種牡馬入りしてケンタッキーオークス馬ララン Lalanを輩出しました。

ラランの息子達で重要な馬が2頭いて、

・ネヴァーベンド Never Bend(1962年アメリカ最優秀2歳牡馬、ケンタッキーダービー2着、プリークネスステークス3着)
・ボールドリーズン Bold Reason(トラヴァーズS、ハリウッドダービー勝ち。代表産駒フェアリーブリッジ=サドラーズウェルズの母)

がいます。

よってネヴァーベンド系(ミルリーフ、リヴァーマン等)および、現代の主流であるサドラーズウェルズ Sadler’s Wells系(ガリレオ、キティンズジョイ等)を持っていると必ずジェダーが表れます。
(なおミスターリーダーとボールドリーズンは父と母の父の3/4が同じという共通点があります)

このような事から、ジェダーは単純に珍しい血統というだけでなく、現代でも(薄くクロスさせるだけでも)非常に影響力がある血の1つと私は捉えています。

サトノフェイバーの母の父ディストーテッド ヒューモアですが、「母の父ディストーテッド ヒューモア」で最も有名なのが2017年の世界最強馬アロゲートです。

さらにアロゲートは母が3世代連続して米国の異系血脈であるネイティヴダンサーをクロスさせているのがまず目立ちますが、その中に欧州の異系血脈であるジェベルのクロス(7×7)も持っています。

この「濃厚なアメリカ系血統の中に、欧州の異系血脈のクロスを織り交ぜる」という形は、走る配合を作る為の重要なテクニックだと私は考えています。

よって、ヴィヴァシャスヴィヴィアンの配合を私が提案するポイントは、まず「ジェダーあるいはジェベルのクロス」でした。

これをサンデー直仔の種牡馬で実現するなら、アグネスタキオンかゼンノロブロイの二者択一で(前者はもういませんから)実質的に選択肢は一つです。

ゼンノロブロイが「祖母の父クレバートリック Clever Trick内3代目にジェダーを持っている種牡馬である」のは、もっと広く知られるべきだと思います。

なお、ゼンノロブロイは母の父マイニング、祖母の父クレバートリックという配合から、種牡馬としては3歳秋からの成長力を欠くイメージがありますが、これは「欧州血統が不足し活力が不足しているから」と私は考えており、配合でそこを補えばワンランク上の馬を生産できるという見方です。
その時にジェダーは(ゼンノロブロイ産駒の血統内では7代目になりますが)キーポイントとなります。

2の「ブラッシング グルーム Blushing Groom&トム フール Tom Foolのニックス」については、過去にアクティブミノルの配合で説明した事があります。

「ブラッシンググルームの母スプリング ラン Spring Run」と「トムフール」が非常によく似た配合をしている事を利用したものです。

ブラッシンググルームを備えた血統の中でトムフールクロスを発生させる事により、クロス&相似クロスが発生し、アメリカの異系血脈を一気に活性化させ、馬力のあるスピード配合を実現できます。

このニックスは、今や世界中でよく見られるようになっていて、重要な配合テクニックの一つと考えています。(日本では桜花賞馬プリモディーネの配合が代表例)

母ヴィヴァシャスヴィヴィアンの代では「ブラッシング グルーム&トム フールのニックス」は一旦途切れていますが、これをサトノフェイバーの代で「(母の父マイニングが)トムフール系バックパサーを持つ種牡馬」であるゼンノロブロイを配合することによって再び「ブラッシング グルーム Blushing Groom&トム フール Tom Foolのニックス」を復活させる事ができます。

配合のプラスアルファを狙った形ですが、これも祖母トゥズラ Tuzlaの5代血統表を見て、Blushing GroomとTom Foolの存在に気付かなければ着想できないでしょう。

ブラッシンググルーム・バックパサー・ニジンスキーによるトムフール Tom Fool-メノウ Menowクロスを使った血の活性化というテクニックはマルゼンスキーやラムタラで広く知られていますが、血統をしっかり見て勘所を抑えておけば代用や転用はどのようにでもなります。

例えば現在のアメリカ最強馬であるガンランナー Gun Runnerは、ジャイアンツコーズウェイ(母方にヘイロー Haloを持つ)と、複数のノーザンダンサーを組み合わせることによって、アルマームードクロスを強力に形作り、「走るサンデーサイレンス系」と同様の配合を実現しています。

サンデーサイレンスが無くても、サンデーサイレンス系と同様の配合によって本物の一流馬が生まれてくる。
サラブレッドの歴史はその繰り返しで来たので、血統を一生懸命追い続けると、短期の予測も長期の予測もおぼろげながらも「見えてくる」ものがあります。

3のトゥルケイナ Turkeinaが2×3クロスで持つレルコ Relkoは、凱旋門賞馬リライアンスの半弟です。
レルコは仏2000ギニーを勝って、英ダービーを6馬身差で勝ち、その秋に同期の仏ダービー馬サンクタス Sanctusを相手に楽勝した名馬ですが、「テディ系の父に、マンノウォー系×トゥルビヨン系の母」という配合の馬で、血統のどこを見ても現代の主流血統を1つも持っていません。

「欧州の芝に対応した、純粋な異系の血」を「2×3という強いクロス」で持つという血統の特徴は、代を経てそのままにしておいても血の活性源となり得ると私は捉えています。

つまり、ヴィヴァシャスヴィヴィアンはアメリカ血統中心で配合を組み立てていけば、このレルコの2×3が強力な活性源となる構造を最初から持っていたのです。

何よりサトノフェイバーの配合の1番のキーポイントは、
表に出たミスター プロスペクター Mr. Prospectorの4×4クロスが、中身がしっかり「継続の形」になっており、
ヘイルトゥリーズン Hail to Reasonの4×6・6クロスも同様に「継続の形」を、しっかり実現させているという点です。
(例えばミスタープロスペクターは2本、その父レイズアネイティヴは4本、その父ネイティヴダンサーは6本。代を遡るごとにクロスの本数が増えていく形です。)

以上のように解説したサトノフェイバーの「3つの大きな配合のポイント」にしても、ミスタープロスペクターとヘイルトゥリーズンの「クロスの継続」にしても、サトノフェイバーの5代血統表をどれだけ見回しても何も見えて来ません。
「ミスプロの4×4クロスがあるなぁ」、「ディストーテッドヒューモアは米国リーディングサイアーだからなぁ」では本当に良い配合かどうかも全く分かりません。
多くの人がそうであるように《流行りの血統を選んで終わり》を繰り返すだけの単調な作業になってしまいます。

私は血統を最低でも8代目まで見て、配合のバランスや血の継続を考察しないと、走る馬を作ることも選ぶことも難しいと考えています。
ですから、まず血統表を8代まで見る人がもう少し増えて欲しいと思っています。
血統の醍醐味を知るには8代は必要です。

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