【配合解説】ランスオブプラーナ

昨年に続き、私が配合をアドバイスしたフジワラファームさんの生産馬が今年も3歳重賞を勝ちました。
サラブレッドの血統を43年間研究し続けた成果が少しでもお役に立て、関係者の皆さんの喜びへ繋がった事は何より嬉しく思っています。

ランスオブプラーナはケープブランコ産駒の初重賞勝ちとなります。
私はこの種牡馬が輸入された初年度から注目していて毎年自分の繁殖牝馬にも種付けしており、グランデルカクが新馬勝ちを収めることができました。

サドラーズウェルズの系統について

「サドラーズウェルズ系は日本に向かない、軽い芝で走らない」と日本の競馬業界では当たり前のように信じられていて、ケープブランコもその影響を受け、それほど人気にはなっていません。
しかし私は凱旋門賞を狙うならサドラーズウェルズのような血統を日本でも(配合のテクニックを組み合わせながら)取り入れる必要があると考えており、ランスオブプラーナの配合では自信を持ってケープブランコを提案しました。

ケープブランコは同父系のカーネギーに似た配合の個性があり、種牡馬としても母の父としても価値が高いと考えています。
カーネギー産駒は日本で数少ないものの母の父として年度代表馬モーリスを筆頭に5頭の重賞勝ち馬を出している事を忘れてはいけません。(グランデファームで私がスタッフと共に精魂込めて育成し重賞2勝の結果を残したメイショウナルトも、母の父カーネギーの1頭です。)

ドイツの牝系

また私はサドラーズウェルズ系の中でもガリレオ Galileo系には特別注目しており、その大きな理由は「母アーバンシー Urban Sea」の存在にあります。

私は「他国で育った独特の血統」を取り入れることは「血の活性化」が起きる配合テクニックの1つと考えています。
ドイツ血統のアグサンはビワハイジを経て、2010年の年度代表馬ブエナビスタが誕生しました。
今年のクラシック候補サートゥルナーリアは、フランス血統とドイツ血統という2つの異系をセットで持つ血統面で活力豊富なシーザリオが母です。
サトノダイヤモンドは母の血統が代々アルゼンチンで育った、これも個性ある異系の牝系です。
このように異系を取り入れていくと「血の活性化」が起きて名馬が生まれると私は考えていて、これは日本に限らず世界でも、古今東西の名馬の血統によく見られる特徴です。

異系の中でも私はドイツの血は「クロスさせても良し、そのまま置いておいても良し、いくつか組み合わせても良し」と、強力な影響力がある血統だと捉えています。(現に、昨年の英国ダービー馬マサー Masarアーバンシーの3×4クロスです。しかもマサーが持つアーバンシークロスは、方や息子のガリレオ Galileo、方や娘のメリカー Melikahを経由する「息子と娘のクロス」でした。この技法は重要なキーポイントだと私は考えています。)

アーバンシーとサトルチェンジ

ランスオブプラーナの血統でまず注目してもらいたい所は、アーバンシー(ガリレオの母)とサトルチェンジ(マンハッタンカフェの母)。
2つのドイツ血統を組み合わせた配合である所です。

アーバンシーは、父ミスワキ(米国血統を複数持つ)×母アレグレッタ(ドイツ血統&ドイツクロス)
サトルチェンジは、父ローソサエティ(米国血統を複数持つ)×母ザンタルシアナ(ドイツ血統&ドイツクロス)

という配合での共通点があります。
これは「ドイツ血統」という異系の中に「米国血統」という異系がミックスされ、その組み合わせの中にまた別の「異系クロスを持つ」という非常に特殊なものです。

ドイツ血統の特徴

ドイツの血統はどのような配合であってもダークロナルド Dark Ronaldとブランドフォード Blandfordとテディ Teddyの系統を何重にもクロスする形の系統交配になっており、8代9代で血統を見ていると、どのドイツ血統も同じカラーを持ち、同じ特徴が出ています。
アーバンシーとサトルチェンジという2つの個性的なドイツ血統が出会うことで、特に何もしなくても、幾重にも重ねられたダークロナルド、ブランドフォード、テディの3つが継続クロスされていますので、伝わるものが大きいのです。

次の期待はシーザスターズ系種牡馬

このようにアーバンシーは血統面の個性がはっきりしており、配合のテクニックとしても面白い使い方ができますから、次はガリレオの半弟シーザスターズ Sea the Starsの血を引く種牡馬をJBBAさんには導入していただきたいと私は考えています。
この系統の購買は簡単ではないと想像できますが、シーザスターズ系種牡馬はガリレオ系に比べて軽さがあり、グリーンデザートの系統ながら近年立派なクラシック血統に成長してきました。こういった血統は日本馬のレベルアップに必ず貢献できると思います。

チェリービーナス

次に注目してもらいたい所は、ランスオブプラーナの4代母チェリービーナスです。
チェリービーナスは11戦3勝と成績は地味ですが「プリメロの全兄弟クロスを持つパーソロン産駒」で、これは1978年の日本ダービー馬サクラショウリと配合が似ています。「トゥルビヨン系という異系」の中に「異なる異系クロス」を持っており、見かけ以上に力のある血です。
チェリービーナスもアーバンシーやサトルチェンジと同様、ランスオブプラーナの血統に活力を与える第三の存在になっています。

終わりに

それでもケープブランコはサンデーサイレンス系種牡馬に比べればスピード要素が不足しているので、配合に少し工夫が必要でしょう。
ランスオブプラーナの配合では私の提唱する「チャンピオン配合」を意識して、影響力のあるクロスをほぼクロスさせてあります。
5代以内ではNorthern Dancerクロスが目に付きますが、その中のNative DancerとAlmahmoudをクロスさせ、Native Dancerの系統は別にRaise a Nativeもクロスしていますからスピード色を強めてあります。

その他に、父ケープブランコ内のアーティアスと、母マイプラーナ内のパーソロンが出会うことでマイバブー My Babuクロスも発生します。異系を「クロスさせる」という別の方向からも活力を加えてあります。

血統が好きな生産者さん馬主さんは最近でもいらっしゃいますが、ただ珍しいクロスを5代以内に発生させるだけでは走る血統にはなりません。

血統を長く見ていると「走る馬が共通して持っている特徴」や「本当に価値ある血」が記憶されていきます。
配合にこだわるなら、その馬が持っている血統にある「本当に価値ある血」をしっかり見分けて、バランスを整えてあげる必要があると私は考えています。



文責:衣斐 浩(いび・ひろし 有限会社グランデファーム代表)
略歴
1958年生。岐阜県出身。高校時代から笠松競馬場にて朝の攻め馬に騎乗し、調教を付けてから通学する毎日を送る。
16歳時に血統に詳しい義足の獣医師松本思郎師と出会い血統配合に目覚め、走る馬の馬体研究や血統研究をライフワークとしている。
高卒後に東海競馬新聞社に入社。同社では25年勤続。
2003年育成牧場グランデファームを設立。G1馬4頭をはじめ数多くのサラブレッドの育成を手掛け、グランデオーナーズ名義にてJRA馬主資格も所得。近隣の生産牧場や馬主様の要望に応えて配合コンサルティングも行っている。

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