[配合解説]ワイドファラオ

私が配合提案したワイドファラオ号が2019年のニュージーランドトロフィーに続き、ダート重賞のユニコーンステークスも制し、芝ダート問わないオールラウンドな活躍を見せています。

種牡馬ヘニーヒューズについて

ワイドファラオの父ヘニーヒューズは日本に輸入される前から私は注目していた種牡馬です。
実際に私はヘニーヒューズの初年度産駒を2010年3月英国タタソールズ・クレイヴン・ブリーズアップセールにて馬主さん名義で購買しました。(Lotナンバー123番)
ちょうどその時フィンランドで火山の大噴火がありその影響で欧州全土で飛行機が長期間航行不能になる出来事(エイヤフィヤトラヨークトルの噴火)が発生し、私は帰りの飛行機便が1週間飛ばなくなるトラブルに巻き込まれました。
この火山噴火のエピソードにちなんでこの馬はサウンドボルケーノ(火山)と名付けられ、現在種牡馬になっています。

ヘニーヒューズは人気種牡馬ですが体型的に肩が厚すぎるのが弱点で、産駒は芝のスピードへの対応力に欠ける傾向があります。
ヘニーヒューズを配合する際はまず繁殖牝馬の「肩の造り」に気を配り、肩が薄手でしなやかな繁殖に種付けすると良い馬が出ます。配合時や、POGなど馬選びの参考にしてもらえればと思います。

ヘニーヒューズの血統の特徴

体型の癖が強い種牡馬ながら私がヘニーヒューズを評価しているのは、その父ヘネシーの母の父Hawaiiが南アフリカの異系血脈(▼印)、母の父メドウレイク Meadowlakeがアメリカの異系血脈(◎印)であるという点です。

特にメドウレイクは貴重な血で、「アメリカ競馬史上もっとも重要な母の父」との評価を持つプリンスキロ Princequillo(●印)を、母の父としてではなく、「父系として」引いている貴重な血統です。
またメドウレイクの3代母ノーサードチャンス Nothirdchance(♀印)はヘイルトゥリーズン Hail to Reasonの母でもあり、何より同馬は私が提唱する「ハイクオリティアメリカン血統」クロスをダブルで持つ牝馬です。(マンノウォー Man o’Warの3×4、父ブルースウォード Blue Swordがコマンド Commandの5×5)
私はノーサードチャンスのような「HQアメリカン血統のダブルクロス配合」は最も影響力が強く、クロスした時の効果がとても大きいと捉えています。

このような特徴からメドウレイクはプリンスキロとノーサードチャンスという2つの強力な血を使って「息子と娘のクロス」を作ることができます。

ワイドファラオの配合上のポイント

さて、ワイドファラオはヘニーヒューズ産駒初の芝の重賞勝ち馬です。
「ダート種牡馬ヘニーヒューズを使いながら、芝のG2に対応できる配合」に変える事に成功したのは3つのポイントがあります。

1つ目は母ワイドサファイアの配合に異系の活力が強い点
2つ目は異系クロスをセットで用いて連動させた点
3つ目は異系血脈チョップチョップ Chop Chopをクロスさせた点

第1のポイント

まずワイドファラオの配合のポイント1つ目「母ワイドサファイアの配合に異系の活力が強い」点です。
アグネスタキオン×ノーザンテースト牝馬という配合は一見ポピュラーですが、アグネスタキオン内の「アグネスレディー(オークス勝ち馬)」と、ワイドサファイアの母方3代父Dikeの父系「エルバジェ Herbager(仏ダービー勝ち馬)」が端的なポイントです。

アグネスレディーは私がかつて配合アドバイスしたマチカネフクキタル(菊花賞)にも通ずる特徴もあり常に注目しているのですが、一見しても「リマンド(ブランドフォード系)×サリーマウント(ハイペリオン系)×ベリーニ(セントサイモン系)」という配合で、純然たる欧州の異系血脈です。
エルバジェは、その母フラジェッテ Flagetteが「フィルダウシ Firdaussiの2×2」という極端な配合が特徴の異系血脈です。

このように現代の主流ノーザンダンサー、ネイティヴダンサー、ヘイルトゥリーズン、ナスルーラと一度も関わりのない血統や、異系の近親配合は、「そこにあるだけで影響力を持つ」特別な活力を持っていると私は考えていて、ワイドサファイアはそれを複数持っている点で高い価値があります。

当然の理屈ながら、これら欧州の異系血脈はヘニーヒューズのような米国血統と出会えば「全くの異系」として強く作用します。

第2のポイント

異系クロスをセットで用いて連動させるという事は、以前アクティブミノルの血統解説でも述べたHQアメリカン血統である「トムフール Tom Fool-メノウ Menowクロスの継続」に加えて、
「ブルリー Bull Lea-ブルドッグ Bull Dogのクロスの継続」という、連動性の高い2つのクロスを持たせた所を意味します。
この2つのクロスは共に「近い世代にブルドッグを持っている」という共通項があり結びつきが強くなっています。
ワイドファラオの血統においてはトムフールは6代目に1つだけ、その他は7代目8代目に位置する血ですが、この2つの系統(トムフール系とブルリー系)は「異系のクロスの複数連動」が形成されています。

ただ偶然に5代以内に発生したクロスとは雲泥の差がある価値あるクロスで、70~80年が経過した現代でも血統全体に影響を与える力があると私は考えています。
トムフールやブルリークロスは、現代の競走馬の5代血統表では見つけるのは容易ではなく、やはり7代8代の血統表やクロス解析を利用するのがとても大切で、そうでなければ良い配合は作れないと私は考えています。

第3のポイント

ワイドファラオはチョップチョップ Chop Chopクロスを7×6で持っています。
チョップチョップは米国産馬で、異型血脈として私が評価しているテディ系の血を引き、現役時代はエンパイアシティH(ダート1900m)で名馬プリンスキロにも勝利し、カナダで5度リーディングサイアーになった名馬です。
異系血脈であり、名競走馬・名種牡馬であるチョップチョップはクロスとして使っても「活力を呼び起こす」存在として私は常に高く評価しています。

ワイドファラオの血統では父ヘニーヒューズ内のStorm Birdの中に「シャイニングサン Shining Sun(娘)の父」として存在し、母ワイドサファイア内のノーザンテーストの中に「ヴィクトリアパーク Victoria Park(息子)の父」存在していま
ワイドファラオにおけるチョップチョップクロスは「息子と娘のクロス」になっていますから、「威力が増した異系のクロス」となっています。

カナダで育ったチョップチョップという異系の血が世代を経て日本で再び出会い、ワイドファラオの血統の中で活力の源として力を発揮したという訳です。

これら3つの配合上のテクニックによって、ワイドファラオは一般的なヘニーヒューズ産駒と比べて何倍も活力を増した内容になっています。
もちろん私の提唱する「チャンピオン配合」の部分でもツボを抑えており、ほぼ満点に近い内容に整えてあります。

私の提案した配合はただヘニーヒューズ産駒を生産してはどうかという提案ではなく、「全く新しいヘニーヒューズ産駒を生産しましょう」という提案であり、それが生産~育成~トレセン調教という経過を経て、ダートの短距離馬ではなく、芝のスピード馬に変身を遂げ「只者ではないヘニーヒューズ産駒」としてワイドファラオの活躍につながったことはとても嬉しく思います。



文責:衣斐 浩(いび・ひろし 有限会社グランデファーム代表)
略歴
1958年生。岐阜県出身。高校時代から笠松競馬場にて朝の攻め馬に騎乗し、調教を付けてから通学する毎日を送る。
16歳時に血統に詳しい義足の獣医師松本思郎師と出会い血統配合に目覚め、走る馬の馬体研究や血統研究をライフワークとしている。
高卒後に東海競馬新聞社に入社。同社では25年勤続。
2003年育成牧場グランデファームを設立。G1馬4頭をはじめ数多くのサラブレッドの育成を手掛け、グランデオーナーズ名義にてJRA馬主資格も所得。近隣の生産牧場や馬主様の要望に応えて配合コンサルティングも行っている。

 

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